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映画 明日の記憶

明日の記憶、若年性認知症に罹った広告マン

 記憶障害をテーマにした小説のジャンルがありますね。小川洋子の『博士の愛した数式』、少し古いところでは横山秀夫の『半落ち』なんかもアルツハイマーをテーマにしていました。

 この2つは周りの人間の視点から書かれたものですが、荻原浩『明日の記憶』は若年アルツハイマーにかかった主人公の視点から書かれており、広告マンの主人公の徐々になくなっていく記憶に怯えていく心理が書かれています。

 2005年には第2回本屋大賞で2位となっており、映画化もされました。
 映画化では渡辺謙と妻役が樋口可南子が演じていました。
 第30回日本アカデミー賞では最優秀主演男優賞を受賞しています。

 主人公は記憶が徐々になくなっていくことで、仕事に支障が出始め、それを部下達が庇うのですが、それもだんだん無理になり、退職することになります。

 娘が結婚することになり、薄れていく記憶の中、娘のために湯呑み茶碗を作ろうと思い立ちます。
 昔妻と一緒に少し陶芸を習ったことがあり、再び陶芸を始めます。
 人の良い貧乏な陶芸の先生に心を打ち解け、薄れていく記憶の中で、主人公は愛娘の為に結婚祝いに夫婦湯飲み作りに励みます。

 しかし、陶芸の先生は主人公がアルツハイマーにかかっていると分かると、騙して何度も授業料を取り上げてしまいます。
 裏切られた気持ちとともに、逆にまた貧乏な陶芸の先生がわずかな金のために人を騙さざる得ない苦境を思いやります。

 焼き上げていない湯飲みを持って、昔妻と何度か遊びにいった山奥の老陶芸家のもとを、残された記憶を頼りに訪れます。

 数十年ぶりに会った老陶芸家もアルツハイマーにかかっており、惚けた二人はとんちんかんなやり取りをしながらも、野焼きで湯飲みを焼き上げます。

 主人公の記憶には自分の奥さんのこともすっかりなくなり、症状はどんどん進行していくのですが、最後にアルツハイマーに怯える気持ちから自然にそれを受け入れようと言う気持ちに変わる切っ掛けが、老陶芸家との野焼きでした。
 映画では老陶芸家を大滝秀治が味のある演技を見せています。

 娘の結婚式では挨拶を書いた紙を忘れ、スピーチが詰まり、それを妻が助けようとしますが、最後は自分の言葉で詰まりながらも、訥々とスピーチをなんとか終えます。逆に形式ばったスピーチではなく、味のある挨拶となり、一つのヤマ場でした。

 若年アルツハイマーの恐さと、主人公を助けようとする人もいれば、蹴落とそうと豹変する周りの人間模様が淡々と語られていきます。主人公に徐々に同化していき段々恐さを感じましたね。

 ラストで妻が夫を探しに老陶芸家の元に来ますが、もうすっかり妻の名前さえも忘れ去っています。
 しかし救いは夫と共に人生を歩んで行こうと妻の決心でした。